コラム―花によせて
その1 カラタチ
震災で有名になってしまった私の故郷石巻の日和山、そこで撮った一枚の写真には、中学生の私と着物が日常着だった母が納まっています。
山といっても小高い丘です。登りきるとカラタチの垣根に白い白い花が咲いていました。
思えば母と二人だけでこうした散歩をしたのは、あとにも先にもこのときだけだったような気がします。晩年、車椅子の母とりんごの花の中を歩きましたけど。
山頂からの眺めは石巻一の景観です。今は復興の遅れで荒れた姿が痛々しい。
悠々とした北上川が流れ込む洋々たる太平洋の水平線を眺めたあの時は、時間が果てしもなくどこまでも続いているかのように思えていました。時間の区切りが意識になかったほど、中学生の私にとっては、人生は先の見えない未知の世界だったのですから。
今は一日があっという間に終ってしまう毎日、その上、どうあがいても私の人生は、来た道よりも先のほうが短くなりました。
自宅近くの空き地に立つ1本のカラタチの木が白い花をつける頃、いつも思いおこすのは、母と共有した散歩の思い出と無限の時間の感覚です。母との思い出も宝なら、無限の時間もあの年代にしか感じられなかった人生の宝なのでしょう。
(2012年4月1日 記)