コラム―花によせて
その11 キンモクセイ
「あっ、いい香り!キンモクセイだ。どこかな」と探せば、あった、あった。横町に入った家の庭に、香りの源の大きな木が咲き誇っていました。訪問活動をしている時のことです。
それにしても、この甘い香りは天下一品、ほかのどの花にも追随を許しません。
小学生のころ学校帰りの道を歩いていたときに、この香りが漂ってきました。初めてかぐ香りでした。
「何だろう。おいしそうないい香り・・・・」と、私はどこから漂ってくるのか知りたくて、探し回りました。ランドセルをしょったまま、クンクンと鼻を鳴らしながら、あちこち探しました。「このあたりなんだけどなあ・・・・」
「あ、これかな。この花から匂っていたのかな・・・」そうでした!
その花があったところは、なんと、ある家と家の間にある小さなどぶの中、そこに一枝棄ててありました。おそらく、花瓶に飾っておいたが盛りを過ぎたので棄てられたものだったのでしょう。
私は、「おいしいものではなかったんだ」と少しがっかりして、そして「すごいなあ」とも思いました。汚れたどぶの中にあっても、枯れても、これほどの匂いを放つとは。
その花の名前は、母に聞きました。「それはね、きっとキンモクセイだよ。みかん色だったろう?」そうか、キンモクセイか・・・これが私とキンモクセイの出会いです。
その後、この強い香りが生かされて、トイレのそばに植える木になっていたと知りました。トイレの悪臭と対等にたたかえる花として重宝されたのですね。
まだ、水洗トイレなどなかった時代に育った人は、「キンモクセイ」というと「トイレ」を連想すると言います。
私もその年代に入るのですが、実家のトイレの前に植えてあったのは、チンチョウゲでした。 実家のトイレも、当時は母屋と別に外にありました。
でも、水洗トイレが普及するにつれ、そのイメージも薄れていると思います。昔はトイレ消臭剤の香りは「キンモクセイ」と相場が決まっていましたが、最近はラベンダーとかさまざまな香りが採用されています。
私のキンモクセイのイメージは、やっぱり、遊学路だった住吉町のあの路地のどぶです。よくもあんなところでよい香りを・・・と、「はきだめに鶴」的な、すてきな花のイメージです。
(2012年10月12日 記)