コラム―散歩道
映画「日本の青空」
監督の見事な手腕
映画「日本の青空」が長野市で上映されました。やりくりして観に行くことができました。それぞれの地域で一日の上映ですから、観そびれてしまった方もと多かったと思います。見終わって、「日本国憲法」を持っている誇りが体中に湧きあふれるように感じました。
安倍首相を筆頭とした靖国派の内閣が、改憲の策動のために国会運営を暴走し、国民投票法を強行に採決、成立させました。改憲派は、「憲法はアメリカから押し付けられたもの、今こそ自分たちの憲法を創ろう」とまことしやかに宣伝、国民を丸め込もうとしています。
この危険な動きに対して「押し付けられたものではない」ことを、当時の歴史状況にそって丁寧に画いています。
上映に先立って監督の大澤豊氏が「涙あり感動ありの物語にするため多少の脚色はありますが、歴史の事実は時間をかけて何度もしっかり調べましたから、それは大丈夫、自信があります」と挨拶しました。
「憲法」が主題ですから、理屈っぽく面白みのない、お勉強するような映画かな、との心配は吹き飛びました。挨拶にあったように、感性に訴え涙を流させながら、国民の民主主義と平和への願いが結実した憲法であることを見事に伝えきった監督の手腕に冠服しました。
「九条」は日本の青空
話は現代、雑誌社が憲法問題の特集を組む計画に奔走する若い女性編集者(田丸麻紀)が、調べてゆくうちに、鈴木安蔵憲法学者(高橋和也)に行き着くところから、物語は展開します。
ポツダム宣言を受け入れた日本政府が創った憲法草案は、基本的には帝国憲法の枠組みを出ていないものでした。GHQはこれを「戦前とまったく代わっていない」とはねつけます。その後、政府側とGHQの示した草案をめぐって激しいやり取りがあり、現憲法が決まるまでには、最後は30数時間に及ぶ夜を徹した論争がありました。
GHQが示した草案にはお手本がありました。それが鈴木安蔵氏を中心とする民間の「憲法研究会」の草案要綱だったのです。
「憲法研究会」の要綱には、国民主権、法のもとの平等、社会保障など、今の憲法の基本がうたわれています。しかし、軍隊をどう表現したらいいか、鈴木安蔵は悩みます。悩んで空白の条項となりますが、幣原内閣の意見が取り上げられ、空白は「戦争の放棄」「戦力の放棄」となって九条が生まれたのでした。
「日本の青空」の題名は、国民が8月15日の終戦のとき見た青空が、もう戦争は終ったという安堵感とこれからの生活への希望が、「九条」として実って国民の青空になったことを示唆しています。
鈴木安蔵氏の妻は言います。「女性に参政権を与えれば戦争はなくなる。子どもを戦争へ送りたいと思っている親はいない」。
GHQのラウエルが記した「(鈴木らの)要綱は民主主義的で賛成できる」との文章が、1959年に発見されたことにより、それが裏づけとなって、憲法は国民の願いが結実したものであることが明確になったのです。
「九条を変えろ」といっているのは誰でしょうか。アメリカが、地球規模の侵略戦争をするために、自国の軍隊の節約のため、日本に自衛隊と日本人の命を提供しろと要求していること、これこそが押し付けというものです。
一昨年、中国東北地方の戦跡の後をたどった私は、盧溝橋にある「抗日戦線記念館」で受けた衝撃を忘れることができません。日本軍が行った、目を背けたくなるような野蛮な行為の数々の写真や記録の隣に、日本の憲法「九条」が掲げられておりました。そこには「これが日本の新しい憲法です」と書かれてあったのです。
戦争放棄した日本を許し、平和的外交をやっていこうとの心の広さが伝わってきて、心打たれました。
「九条」を守りぬくことは、日本がアジアと世界から信頼をされるための試金石、そして、第2次世界大戦の反省から、人類が到達した宝なのだと、心に突き刺さるように実感したのです。
憲法改悪を阻止するために
監督の大澤豊氏はこの映画の作成の動機について、このように述べています。「九条の会の発足の会のとき、呼びかけ人の9人が、老いてなお闘志あふれ、九条を守ろうと訴える姿に衝撃を受けた」そして「憲法改悪を阻止するために、少なくても200万人から300万人の人に見てほしい」と。
鈴木安蔵氏は、治安維持法の第一号の検挙者、そのため京都大学を中退、しかし転向の誘惑にも負けず、独自の研究活動を続けてきた学者です。その苦しい暮らしぶりも映画では、よく画かれていました。
このような節を曲げずにがんばった先人の苦労、戦争ではアジアで2000万人、日本で320万人の尊い犠牲者、そして、小林多喜二や、長野では伊藤千代子など、戦争に反対したために権力に殺された共産党員の先人たち・・・・・私は今を生きるものとして、この大いなる歴史を前に進める責任を感じます。靖国派と呼ばれる一部の狂った集団のために、いつか来た道に戻してはなりません。いま、燎原の火のごとく広がっている平和への世論を、目の前に迫った参議院選挙で、結実させようではありませんか。